家内労働法

フリーランス事業者間取引適正化等法が施行されたので、少し似ている家内労働法に触れてみます。
労働形態としては存在を知っていても、法律が存在することはあまり知られていないかもしれません。

いわゆる内職ですが、既に内職と言ってもうまく伝わらないかもしれません。
個人や同居の親族とともに、自宅で簡単な設備を用いて、業者から部品や材料を受け取り、それを加工等して納品する労働形態のことです。
たとえば、電線とコネクタを受け取って、電線を規定の長さで切断し、端子をハンダ付けして、コネクタに差し込む、といった製品加工を作るといった作業です。他にも、袋詰めや文字校正、縫製などがあります。主に、工場等での大量生産に向かず人手での作業になる軽作業です。近年は人件費の安い国外に生産拠点が移っていることが多いです。
1973年には184万人居た家内労働者も、2022年にはピーク時の約5%の95,108人になっています。2010年あたりからは一定の需給で推移しています。1

家内労働者数(男女別)および委託者数の推移
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001286087.pdf

家内労働は、雇用契約に基づくものではなく、個人や同居の親族で作業する場合には、労働基準法の労働者には該当しません。
雇用保険には、工業的作業で危険を伴うものが、希望により特別加入できます。個人事業主の雇用保険加入は、自分でかける保険で自衛的なものですので、純粋な労働者保護とはやや異なる制度です。労働者と似たような状況なのに、無保険状態になるのは酷だから、特別に加入を認めてあげますよ、という政策によります。

家内労働者法の内容

家内労働法
第一条 この法律は、工賃の最低額、安全及び衛生その他家内労働者に関する必要な事項を定めて、家内労働者の労働条件の向上を図り、もつて家内労働者の生活の安定に資することを目的とする。
2 この法律で定める家内労働者の労働条件の基準は最低のものであるから、委託者及び家内労働者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

家内労働法には、労働法らしい目的条文があります。

対象2

家内労働者とは

第2条2項 この法律で「家内労働者」とは、物品の製造、加工等若しくは販売又はこれらの請負を業とする者その他これらの行為に類似する行為を業とする者であつて厚生労働省令で定めるものから、主として労働の対償を得るために、その業務の目的物たる物品(物品の半製品、部品、附属品又は原材料を含む。)について委託を受けて、物品の製造又は加工等に従事する者であつて、その業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とするものをいう。

次の要件を全て満たす者です。

1 製造・加工業者や販売業者(問屋など)またはこれらの請負業者(請負的仲介人を含む。)から委託を受けること。
2 物品の提供を受け、その物品を部品・附属品または原材料とする物品の製造、加工などに従事すること。
3 委託業者の業務の目的である物品の製造加工などを行うこと。
4 主として、労働の対償を得るために働くものであること。
5 本人のみ、または同居の家族とともに仕事をし、常態として他人を使用しないこと。

データ入力作業については、平成2年3月31日基発第184号、婦発第57号で、ワープロ作業の取り扱いが示されています。3

(1) 原稿に従ったワープロ操作を行い、かつ、当該ワープロ操作により発生した電気信号をフロッピーディスクその他の外部記憶媒体(以下「フロッピーディスク等」という。)に保存する作業は、家内労働法にいう「加工」に該当するものであること。
(2) フロッピーディスク等の提供又は売渡しがあった場合は、家内労働法にいう「物品」の提供又は売渡しがあったものとすること。

家内労働手帳

委託者が交付する義務があります。

就業時間

委託者または家内労働者は、類似業務の通常の労働時間を超えないようにする努力義務があります。

委託打ち切り

6ヶ月を超えて継続して委託する場合、委託者は打ち切ろうとする場合、遅滞なく予告するようにする努力義務があります。

支払

  • 通貨での全額払い
  • 受領から1月以内の支払(月払いを除く)
  • 家内労働者の従事場所における支払(努力義務)
  • 最低工賃の規定

安全および衛生

  • 委託者の危険防止の措置義務
  • 家内労働者の危険防止の措置義務
  • 都道府県労働局長または労働同基準監督署長の使用停止と必要な措置を命令できる規定(6月以下の懲役、5千円以下の罰金)

罰則

前述の6月以下の懲役、5千円以下の罰金の他に、一万円と5千円の罰金の規定があります。

判例

調べてみましたが、家内労働法を根拠法とする判例は見つかりませんでした。

フリーランス新法との比較

廃れてきた家内労働法を調べ始めた理由が、フリーランス事業者間取引適正化等法の施行ですので、それと比較してみます。

6ヶ月継続した契約を打ち切る場合に、予告等のより手厚い保護をする点の期間の長さは一致が見られます。
報酬の支払期限は、1ヶ月と60日で違いがあります。フリーランスの方が長いことは、昭和の法律が1ヶ月としていたものが、60日になったことは後退とも捉えられます。
家内労働法にない育児介護やハラスメントに関する規定は、近年の労働法の基本的な規定になっていることが窺えます。
取引条件の明示や禁止行為の列挙が増えたことは、近年の発注業者において詐欺的な事例が増えてきたのか、昭和の時代には無視されていたのか、判断する十分な材料がないので断定的なことは言い難いところです。


  1. https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001286087.pdf ↩︎
  2. https://www.mhlw.go.jp/content/001345079.pdf ↩︎
  3. https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/jirei_toukei/chingin_kanairoudou/toukei/kanai-law.html ↩︎

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