厚生年金の適用拡大

基本のおさらいと時事ネタです。

基本のおさらい

基本的に、厚生年金の加入要件と健康保険の加入要件は同じです。

事業所要件

会社全体として、厚生年金に入る必要があるかないかという判定です。

非加入が許されない強制適用事業所と、希望すれば入れる任意適用事業所があります。

強制適用の要件

  • 適用業種である事業の事業所であって、常時5人以上の従業員を使用するもの
  • 国、地方公共団体、法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの
  • 船員として船舶所有者に使用される者が乗り組む船舶

会社の場合は、1人でも従業員がいれば、2番目に該当します。
個人経営の場合は人数と業種によります。飲食業は強制適用ではありません。

任意適用事業所は、従業員の1/2以上の同意を得て、事業主が申請することで加入できます。
従業員が求めても、事業主が拒否することは可能です。事業主も折半で費用負担する必要があり、事務作業も発生するため、強制はされません。

被保険者要件

適用事業所になっても、従業員全てが厚生年金の被保険者になるわけではありません。
個々の従業員が被保険者要件に当てはまる必要があります。

  • 70歳以上
  • 臨時に使用される者
  • 所在地が一定しない事業所に使用される者
  • 季節的業務に使用される者
  • 臨時的事業の事業所に使用される者
  • 短時間労働者で、以下のいずれかに当てはまる者
    • 一週間の所定労働時間が20時間未満
    • 報酬が、88,000円未満
    • 学生

ざっくり説明なので、それぞれ細かい規定や例外があります。
基本的には、期間が限られている臨時の使用や事業は被保険者になりません。

短時間労働者は、適用から外れるケースがあります。

短時間労働者

短時間労働者とは、その事業所の通常の労働者と比べて、1週間の所定労働時間または1ヶ月の所定労働日数が3/4未満であるものです。
所定労働時間ですので、残業時間などを含まない就業規則等で定められた時間で判断します。
一般的なフルタイム労働者は週37~40時間程度になりますので、30時間以下程度が目安になります。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上である必要があります。
  • 報酬が88,000円である必要があります。
    20時間4週間働くと、時給1,100円で88,000円になります。
    106万円の壁というのは、これの年額です。
  • 大学生などは被保険者になりません。休学中や夜間や通信制の大学生は被保険者になれます。

短時間労働者については、特定適用事業所という制度があります。特定適用事業所以外の短時間労働者は被保険者になりません
特定適用事業以外の短時間労働者は、労働組合の同意などの要件を満たして、申請することによって、被保険者になることができます(任意特定適用事業所)。労働者が求めても、事業主は拒否することができます。

特定適用事業所

同一法人の被保険者の総数が、51人以上(令和6年10月から)

事業所というときは、本社・支社は別に扱うことが多いですが、ここでは合計で計算します。
法人の場合は、同一法人番号の事業所をまとめます。個人事業所の場合は、事業所単位になります。

特定適用事業所の短時間労働者は、被保険者になります(週20時間以上、報酬88,000円以上、学生でない必要があります)。

今後の計画として上がっているもの

ここまでが2024年11月現在の制度です。

特定適用事業所の企業規模要件は、以下のように適用拡大されてきています。

平成28年10月 501人以上
令和4年10月 101人以上
令和6年10月 51人以上

この規模要件は撤廃が検討されています。

他に、88,000円の報酬要件や、「週20時間以上」の要件の拡大も検討されています。

報酬要件は、ニュースによると、厚労省は撤廃する方針だそうです1。東京都の最低賃金は1,163円ですので、月あたりにすると
1,163 * 20 / (12/52) = 100,793
となり、報酬要件だけではあまり影響はなさそうです。

「20時間以上」に関しては、厚生年金についてはまだ決まったものはありませんが、雇用保険は2028年10月から「10時間以上」になります。

労使の折半割合は5:5が現在の制度です。これを、103~130万円くらいの範囲では変則的にできるようにする案が出ています。労働者0にはしないようです。

月の報酬が年収105.6万円(月88,000円)で、これまで適用除外だった人が適用になった場合、以下の負担になります。
厚生年金の保険料は、18.3%です。健康保険は協会けんぽ(東京、40歳未満)の場合は、9.98%です。これを労使で折半します。

所得税は、年収1,056,000円の場合、給与所得控除 550,000と基礎控除 480,000を引いた、26,000円が課税所得となり、5%の1,300円が所得税になります。
住民税は、課税所得が76,000円ですので、所得割が10%で、7,600円になります。均等割等は変化しませんので、省略します。話を簡単にするために、その他の控除も省略します。

折半の場合の社会保険料:8052円 + 4391円 = 12,443円

88,000-12,443=75,557円/月
75,557*12=906,684円/年

14.9万円も減ってしまいました。
所得税・住民税は、社会保険料を引いた額で計算しますので、このケースでは非課税になり、8,900円取り返せます。このケースは非課税になりましたが、所得税と住民税で、社会保険料の15%が取り戻せます(162.5万円までの場合)。おおよそ12%手取りが減ることになります。

健康保険については、被保険者を外れるとデメリットばかりですが、厚生年金はメリットもあります。
まず、将来、老齢厚生年金が給付されます。
事故や病気で障害を負って働けなくなった場合、障害厚生年金が支給されます。
老齢厚生年金は払った分に比例して支給されるので、あまり多くないかもしれません。障害厚生年金は、国民年金よりもカバーする範囲が広くなります。

労使の割合を1:9にした場合

労働者:1,610 + 878 = 2,488円/年
使用者:14,494 + 7904 = 22,398円/年

労働者は、年間で33,456円の負担になります。使用者は、268,776円の負担になります。

労働者には少額の負担で厚生年金のメリットが享受できるのでお得です。
使用者は、3ヶ月分の給与支払額相当になります。
経済的な計算で、使用者が20時間以下に抑える対応をしてくるかもしれません。労働者がもっと働きたいと言っても、使用者がいらないと断るパターンです。こちらについては、助成金制度もセットで出てくるかもしれません。


  1. https://www.asahi.com/articles/ASSC80PSLSC8UTFL004M.html 2024/11/16閲覧 ↩︎

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