船舶の就業規則

陸上にある会社のように、一定以上の船舶にも就業規則が義務付けられています。
なお、船員法の就業規則は社会保険労務士には扱えません。法定の就業規則に関しては、海事代理士か弁護士の業務になります。もちろん、船舶所有者が自身で作成しても良いです。

参考: 「船員モデル就業規則」
https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001619967.pdf

比較

船員法労働基準法
届出の義務のある者船舶所有者使用者
届け出先国土交通大臣(所轄地方運輸局長)行政官庁(所轄労働基準監督署長)
人数常時10人以上の船員常時10人以上の労働者
絶対的必要記載事項給料その他の報酬(決定・支払いの方法、時期、昇給の基準)
労働時間(基準労働時間、休息時間、当直割、交代方法、交代制)
休日および休暇(時期、方法、場所)
定員(海員の職務・員数、船舶の名称、総トン数、主機の出力、航行区域又は従業区域、就航航路又は操業海域及び用途)
始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制
賃金
退職
相対的必要記載事項食料、安全、衛生
被服、日用品
陸上における宿泊、休養、医療、慰安の施設
災害補償
失業手当、雇止手当、退職手当
送還
教育
賞罰
その他の労働条件
退職手当
臨時の賃金、最低賃金額
食費、作業用品その他の負担
安全・衛生
職業訓練
災害補償、業務外の傷病扶助
表彰、制裁
事業場の労働者のすべてに適用される定め
だいたい似通っていますが、相対的記載事項には独特な項目があります。

ほぼ共通する規定

過半数で組織する組織する労働組合、過半数代表者の意見を聞き、意見を記した書面を添付しなければならない。

法令または労働協約に違反する場合:国土交通大臣が変更を命ずることができる。(労働基準法の場合、所轄労働基準監督署長)
不当であると認めるとき:交通政策審議会等の議を経て、国土交通大臣が変更を命ずることができる。(労働基準法にはない)
(地方運輸局長も行える)

船員法のみの規定

船舶所有者を構成員とする法人が、統括的に就業規則を作成できる。

労働基準法のみの規定

制裁の上限。

船員法に関しての補足

船員:船舶に乗り組む船長及び海員並びに予備船員
海員:船内で使用される船長以外の乗組員で労働の対償として給料その他の報酬を支払われる者をいう。
予備船員:船舶に乗り組むため雇用されている者で船内で使用されていないものをいう。

船員法の適用される船舶

  • 日本船舶
  • 日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶
    • 船舶法第一条第三号及び第四号に掲げる法人以外の日本法人が所有する船舶
      • 三 日本の法令に依り設立したる会社にしてその代表者の全員及び業務を執行する役員の三分の二以上が日本国民なるものの所有に属する船舶
      • 四 前号に掲げたる法人以外の法人にして日本の法令に依り設立しその代表者の全員が日本国民なるものの所有に属する船舶
    • 日本船舶を所有することができる者及び前号に掲げる者が借り入れ、又は国内の港から外国の港まで回航を請け負つた船舶
    • 日本政府が乗組員の配乗を行なつている船舶
    • 国内各港間のみを航海する船舶

除外

  • 総トン数五トン未満の船舶
  • 湖、川又は港のみを航行する船舶
  • 政令の定める総トン数三十トン未満の漁船
    • (細かいので省略。船員労働の特殊性が認められないものという趣旨)
  • 船舶職員及び小型船舶操縦者法第二条第四項に規定する小型船舶であつて、スポーツ又はレクリエーションの用に供するヨット、モーターボートその他のその航海の目的、期間及び態様、運航体制等からみて船員労働の特殊性が認められない船舶として国土交通省令の定めるもの
    小型船舶→総トン数二十トン未満の船舶及び一人で操縦を行う構造の船舶であつてその運航及び機関の運転に関する業務の内容が総トン数二十トン未満の船舶と同等であるものとして国土交通省令で定める総トン数二十トン以上の船舶をいう。
    国土交通省令→スポーツ又はレクリエーションの用に供するヨット又はモーターボート

港の区域は、港則法に基づく港の区域の定めのあるものについては、その区域によるものとする。ただし、国土交通大臣は、政令で定めるところにより、特に港を指定し、これと異なる区域を定めることができる。


船員法

第十一章 就業規則
(就業規則の作成及び届出)
第九十七条 常時十人以上の船員を使用する船舶所有者は、国土交通省令の定めるところにより、次の事項について就業規則を作成し、これを国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更したときも同様とする。
一 給料その他の報酬
二 労働時間
三 休日及び休暇
四 定員
② 前項の船舶所有者は、次の事項について就業規則を作成したときは、これを国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更したときも同様とする。
一 食料並びに安全及び衛生
二 被服及び日用品
三 陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設
四 災害補償
五 失業手当、雇止手当及び退職手当
六 送還
七 教育
八 賞罰
九 その他の労働条件
③ 船舶所有者を構成員とする団体で法人たるものは、その構成員たる第一項の船舶所有者について適用される就業規則を作成して、これを届け出ることができる。その変更についても同様とする。
④ 前項の規定による届出があつたときは、同項に規定する船舶所有者は、当該就業規則の作成及びその作成又は変更の届出をしなくてもよい。
⑤ 第一項乃至第三項の規定による届出には、第九十八条の規定により聴いた意見を記載した書面を添附しなければならない。
(就業規則の作成の手続)
第九十八条 船舶所有者又は前条第三項に規定する団体は、就業規則を作成し、又は変更するには、その就業規則の適用される船舶所有者の使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは、船員の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
(就業規則の監督)
第九十九条 国土交通大臣は、法令又は労働協約に違反する就業規則の変更を命ずることができる。
② 国土交通大臣は、就業規則が不当であると認めるときは、交通政策審議会又は地方運輸局に置かれる政令で定める審議会(以下「交通政策審議会等」という。)の議を経て、その変更を命ずることができる。
(就業規則の効力)
第百条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める雇入契約は、その部分については、無効とする。この場合には、雇入契約は、その無効の部分については、就業規則で定める基準に達する労働条件を定めたものとみなす。

(就業規則等の掲示等)
第百十三条 船舶所有者は、この法律、労働基準法、この法律に基づく命令、労働協約、就業規則並びに第三十四条第二項、第六十四条の二第一項、第六十五条及び第六十五条の三第三項の協定を記載した書類を船内及びその他の事業場内の見やすい場所に掲示し、又は備え置かなければならない。
② 船舶所有者(漁船その他第百条の二第一項の国土交通省令で定める特別の用途に供される船舶の船舶所有者を除く。)は、二千六年の海上の労働に関する条約を記載した書類を船内及びその他の事業場内の見やすい場所に掲示し、又は備え置かなければならない。
③ 海上労働証書又は臨時海上労働証書の交付を受けた特定船舶の船舶所有者は、これらの証書の写しを船内及びその他の事業場内の見やすい場所に掲示しなければならない。

船員法施行規則

(就業規則)
第六十九条 船舶所有者は、法第九十七条の規定により就業規則を届け出ようとするときは、就業規則二通を所轄地方運輸局長に提出しなければならない。
第七十条 法第九十七条第一項各号は、次の事項を含むものとする。
一 給料その他の報酬については、決定及び支払の方法、支払の時期並びに昇給の基準
二 労働時間については、基準労働期間、休息時間、当直割及び当直の交代方法並びに交代乗船制等特殊の乗船制をとる場合における当該乗船制
三 休日及び休暇については、時期、方法及び場所
四 定員については、海員の職務及び員数並びに船舶の名称、総トン数、主機の出力、航行区域又は従業区域、就航航路又は操業海域及び用途

労働基準法

第九章 就業規則
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
(作成の手続)
第九十条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
② 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
(法令及び労働協約との関係)
第九十二条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
② 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
(労働契約との関係)
第九十三条 労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十二条の定めるところによる。

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