原則
有給休暇の賃金計算は、3つの方法があります。これは、限定列挙であり他の方法は許されません。
- 平均賃金
- 通常の賃金
- 健康保険法の標準報酬月額の30分の1
標準報酬月額とする場合は、労使協定が必要です。届出は不要です。
「労働者各人についてその都度使用者の恣意的選択を認めるものではな1」く、就業規則や労使協定で、計算方法を定めておく必要があります。
部門別などの複数制度は許されません。雇用形態による異なる制度は可能ですが、不合理な待遇差になる場合は別の問題が生じ得ます。
計算の結果、時給換算で最低賃金を下回ってしまう場合については、違法とする説と違法ではないとする説があるようです。法39条9項に則って計算した場合に、最低賃金を下回る可能性はありますから、違法と言い切るのは厳しいかなと思います。
労働基準法39条9項
使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。
労働基準法施行規則25条
法第三十九条第九項の規定による所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金は、次に定める方法によつて算定した金額とする。
一 時間によつて定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額
二 日によつて定められた賃金については、その金額
三 週によつて定められた賃金については、その金額をその週の所定労働日数で除した金額
四 月によつて定められた賃金については、その金額をその月の所定労働日数で除した金額
五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額
七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額
② 法第三十九条第九項本文の厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金は、平均賃金又は前項の規定により算定した金額をその日の所定労働時間数で除して得た額の賃金とする。
③ 法第三十九条第九項ただし書の厚生労働省令で定めるところにより算定した金額は、健康保険法第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)をその日の所定労働時間数で除して得た金額とする。
平均賃金
労働基準法における平均賃金とは、第12条で定義される平均賃金のことです。労災での平均賃金と同じです。
原則は、事由の発生した日以前3か月に支払われた賃金総額を、暦日数で除したものです。
事由の発生は、有給休暇当日です。2日以上連続する場合は、初日です。
賃金は、通勤手当や割増手当も含みます。
算定期間に含まれる有給休暇の日数・賃金は除外しません。(昭和23・11・5基発231号)
週や月で支払われる手当で二重払いになる場合は、1日分を除外しても構いません。(昭和23・4・20基発628号)
賃金締切日がある場合、さかのぼって賃金締切日区切りで計算します。労災での計算はこれに従うことになりますが、有給休暇で都度計算するのは結構大変です(コンピュータですれば現実的ではあります)。
算定事由発生日が締切日の場合は、その前の締切日になります。
銭未満は切り捨てです(円以下2桁になります。例:12345円67銭)。
時給・日給・出来高給では最低保証額があります。
労働基準法12条
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
② 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
③ 前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
二 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第十項において同じ。)をした期間
五 試みの使用期間
④ 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
⑤ 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
⑥ 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
⑦ 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
⑧ 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。
通常の賃金
「日給者、月給者等につき、所定労働時間労働した場合には、通常の出勤をしたものとして取り扱えば足り2」る。
一般的には、この方法が簡便です。
都度計算する場合は、施行規則25条の方法で計算します。1日(所定労働時間)単位の金額です。
臨時に支払われた賃金、割増賃金は算入されません。
通常の労働に対して支払われる賃金は含まれるものと解されます。
健康保険法の標準報酬月額の30分の1
この方法の場合は、就業規則だけでは足りず、労使協定が必要です。届出は必要ありません。
賃金の変動が大きく、前2つの方法では煩雑になる場合などに、事務処理が簡便になることがあります。
社会保険未加入者の場合は、相当する額を別途計算します。
その他
実際の採用割合を調べたかったのですが、良い資料がありませんでした。
フレックスタイム
昭和63・1・1基発1号
ハ 労使協定の協定事項
④ 標準となる一日の労働時間
フレックスタイム制の下において、年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間等となる労働時間の長さを定めるものであり、単に時間数を定めれば足りるものであること。
なお、フレックスタイム制の下で労働する労働者が年次有給休暇を取得した場合には、当該日に標準となる一日の労働時間労働したものとして取り扱うこととするものであること。
有給休暇の取得時間数を、フレックスタイムの清算期間の労働時間に加えて、賃金計算します。
有給休暇取得により労働したものとして取り扱った時間は、労働時間の実時間に算入する必要はありません。
沿革
昭和22年4月7日時点では、「その期間について平均賃金を支払わなければならない」3となっていました。
昭和27年7月31日(第一次改正)。このときに、現在と同じ3パターンになりました。4
手続きの簡素化と、労使の自主的協定に委ねることが立法趣旨です。平均賃金の算出は煩雑であり、災害補償と異なり有給休暇でそこまで正確にする必要はない。標準報酬月額は実際の賃金を下回ることがあるから労使協定を必要とする。5
関連判例
最判平5・6・25民集47・6・4585 沼津交通事件
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52785
有給休暇の取得で皆勤手当を支給しない旨が、公序に反し無効なものとはいえないとされた事例
「年次有給休暇の取得を理由に皆勤手当を控除する措置は、同法三九条及び一三四条の趣旨からして望望ましいものではないとしても、労働者の同法上の年次有給休暇取得の権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとまでは認められないから、公序に反する無効なものとまではいえない」
- 昭和27・9・10基発675号、平成11・3・31基発168号 ↩︎
- 昭和27・9・20基発675号、平成22・5・18基発0518第1号 ↩︎
- 官報6066号 https://dl.ndl.go.jp/pid/2962580/1/2 ↩︎
- https://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/01319520731287.htm ↩︎
- 第13回国会 衆議院 労働委員会 第12号 昭和27年5月14日 https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=101305289X01219520514 ↩︎